公開中の映画『国宝』で描かれる天才女形・立花喜久雄や花井半次郎の物語、実話に基づいているのか気になりますよね。映画は吉田修一さんの小説を原作としており、登場人物のモデルが実在した歌舞伎役者ではないかと話題です。
この記事では
という疑問に答えるべく、坂東玉三郎さんや六世中村歌右衛門さんなど、名前が挙がる歌舞伎界の名優との共通点や、作者のスタンスを整理してご紹介します。
結論から言うと、映画はフィクションですが、リアリティあるキャラクターは実在の名優たちからインスピレーションを得ています。その背景と真偽を丁寧に解説します。
この記事の内容
- 映画『国宝』は実話ではなくフィクション
- 登場人物は実在の歌舞伎役者から着想
- 立花喜久雄は坂東玉三郎を思わせるキャラ
- 花井半次郎には六世中村歌右衛門の面影
- 作者・吉田修一が黒衣として3年取材
- 事件などのモデルは存在しない
- リアルな描写が“実話っぽさ”を演出
- 複数の名優の人生が物語に反映
- 歌舞伎の世界観と人間模様を丁寧に再現
『国宝』とは
あらすじ
長崎の任侠一家に生まれた主人公・立花喜久雄は、父を抗争で亡くし、その後上方歌舞伎の名門「花井家」に引き取られて育つ。
花井家の御曹司・大垣俊介と出会い、互いにライバルでありながら深い友情で結ばれ、苦難を乗り越え芸の道を究めてゆく。
喜久雄は女形(おやま)としての才能を開花させ、一方で歌舞伎界の嫉妬や家族との因縁、芸に生きる孤独と向き合う。
物語は昭和から平成までの激動の時代のなかで、二人の男の成長と芸道、そして「人間国宝」への道を大河小説として描く
原作情報
著者
吉田修一
刊行日
単行本(上下巻):2018年9月7日
文庫本(上下巻):2021年9月7日
特徴
吉田修一作家生活20周年記念作品、朝日新聞出版10周年記念作品として執筆。
2017年1月〜2018年5月、朝日新聞で連載後、加筆修正され刊行。
第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第14回中央公論文芸賞等を受賞。
2025年には映画化を記念し累計発行部数120万部突破。
映画「国宝」上映日・主演人物
項目 | 内容 |
---|---|
公開日 | 2025年6月6日(金) |
監督 | 李相日(「悪人」「怒り」「フラガール」など) |
脚本 | 奥寺佐渡子(「八日目の蝉」「サマーウォーズ」等) |
主演 | 吉沢亮(立花喜久雄役)横浜流星(大垣俊介役) |
上映時間 | 175分 |
① 映画『国宝』は実話ではなく“フィクション”
映画『国宝』は、そのリアルな描写や人物の心理描写から「実話なのでは?」と多くの視聴者が感じる作品です。
しかし、実際には原作小説をベースにしたフィクション作品であることが、作者・吉田修一氏の言葉からも明らかになっています。
ではなぜここまでリアリティを感じるのか、その背景には綿密な取材と深い洞察があります。
まず明言しておきたいのは、作者自身が「特定のモデルはいない」と述べている点です。
吉田氏は、小説『国宝』を執筆するにあたり、3年間にわたって歌舞伎の舞台裏で“黒衣”として現場に入り込み、徹底的な取材を行ったと語っています。
その結果、作品の中で描かれる立花喜久雄や小野川万菊のようなキャラクターは、どこかで見たことがあるような、実在の役者を思い起こさせるような存在になったのです。
つまり、『国宝』は実話ではありませんが、“真実味”を帯びたフィクションであり、それが視聴者に強い没入感を与えているのです。
これは、単なる創作に留まらない、吉田修一氏の文学的なリアリズムの成果だといえるでしょう。
② 主人公・立花喜久雄のモデル候補とは?
映画の中心人物である立花喜久雄は、美しい女形として若くして名を馳せた歌舞伎役者です。
物語の中で描かれる彼の姿には、実在の名優たちの面影が見え隠れします。
特に名前が挙がるのが、現代の名女形・坂東玉三郎氏です。
喜久雄は、幼い頃に歌舞伎界へ養子として迎えられ、厳しい修業を重ねながら女形の頂点を極めるという人生をたどります。
これはまさに、坂東玉三郎氏の経歴と共通点が多いとされており、舞台の革新性や海外での評価を受けた点なども重なっています。
とはいえ、坂東玉三郎氏本人をモデルにしているという直接的な証言はなく、断定は避けるべきでしょう。
一方で、尾上菊五郎や六世中村歌右衛門など、異なる世代の名優たちの要素も融合されていると見る評論家の声もあります。
これは、喜久雄というキャラクターが単なる一人の投影ではなく、歌舞伎という伝統芸能そのものの象徴として構築されていることを示しています。
③ 小野川万菊(花井半次郎)のモデルは?
主人公・喜久雄の良きライバルであり、芸に生きた孤高の存在である花井半次郎(のちの小野川万菊)。
彼の人物像にも、実在した名優・六世中村歌右衛門との共通点が指摘されています。
特に、芸の道を極めたがゆえに私生活では孤独だったという描写は、歌右衛門の人生に深く重なります。
万菊のキャラクターには、孤高・厳格・芸への執着といった精神性が色濃く描かれており、それがリアルさを生んでいます。
また、劇中での演技指導や舞台構成の描写にも、実在する歌舞伎役者の技法が反映されています。
中村鴈治郎氏が実際の歌舞伎演技指導を担当したことから、作品全体のリアリズムにも大きく寄与しているといえます。
このように、半次郎=万菊というキャラクターも、一人のモデルから生まれたというより、複数の名優のエッセンスを取り込んで構築された存在だといえるでしょう。
④ 実話?事件のモデルはあるのか?
映画『国宝』では、人間関係の対立や破綻、嫉妬、断絶など重厚な人間ドラマが展開されますが、
実際に起きた事件やスキャンダルをベースにしているわけではありません。
物語の展開はあくまで作劇によるものであり、実在事件の引用は確認されていません。
ただし、歌舞伎界という閉ざされた世界の中での人間模様は、現実と地続きのような説得力を持っています。
これは作者の徹底した現場観察と取材の成果であり、事件のように見えるドラマティックな描写も、物語として生み出されたものです。
視聴者が「実話では?」と錯覚するのは、それだけリアルで、緻密に構成されたフィクションであることの証でもあります。
⑤ なぜ「実話っぽい」と感じるのか?
視聴者の多くが映画『国宝』を見て
「これは実話なのでは?」
と感じる最大の理由は、歌舞伎という芸能のリアルな描写にあります。
衣装の着付け、稽古の所作、人間関係のヒエラルキーに至るまで、現実そのもののように描かれています。
この描写は、作者が長期取材で培った体験を通じて得られたものです。
また、登場人物の人生や関係性が、どこか実在の名優たちと重なる点も要因のひとつです。
例えば、立花喜久雄の芸術への執着や葛藤は坂東玉三郎を、半次郎の孤高さは六世中村歌右衛門を彷彿とさせます。
こうした“似ているけど特定できない”距離感が、リアルさを強調しています。
つまり、物語がまるで
「見たことのある人生」
のように感じるのは、作り物の中に“真実のかけら”が散りばめられているからです。
その絶妙なバランスが、本作の最大の魅力ともいえるでしょう。
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